ししとー(理系)の考察録

将棋と生物学系の知識、時事について考察するブログ

遺伝子組み換え作物は本当に危険なの?



昨今、遺伝子組み換え作物GMOが世間をよく騒がせている。
実際、このブログを読んでいる方もスーパーや商品などで目にする機会が多いのではないだろうか?


例えば、豆腐の原材料名などにはダイズ(遺伝子組み換えでない)などの表記が多い。

 

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実際には5%以下なら遺伝子組み換え作物が入っていても表記に問題はない

そして読者の方の多くは、遺伝子組み換え作物は危険で良くないものと考えていると思う。実際、私も現状ではGMOを積極的に口にしたいとは思わない。(食べろと言われれば食べれるけどね)

 

しかしながら、遺伝子組み換え作物の危険性の認識は、実は多くが間違った知識や認識から生じているものであって、実際に科学者が考える危険性と消費者が考える危険性には多くの隔たりがある。


というわけで今回、遺伝子組換え作物について読者の皆さんに正しく理解してもらうため、この記事を書くに至った。
正直、こういういかにも荒れそうな話題(政治とか右翼左翼とか)には触れたくなかったのだが、一応生物系の知識ということで・・・。

 

ここからは、科学的な視点から遺伝子組み換え作物について解説していく。

 

 
1、そもそも遺伝子組み換え作物とは?

 

まず、遺伝子組み換え作物とは何ぞや、という点について解説する。
遺伝子を組み換えた作物、と言えば簡単だが、そもそも遺伝子とは?という疑問を多くの方が持つと思う。そのため、まずは遺伝子について解説する。

 

遺伝子・・・遺伝子(いでんし)は、ほとんどの生物においてDNA担体とし、その塩基配列にコードされる遺伝情報である。Wikipediaから引用)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90

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遺伝子のイメージ


こう専門用語を並べると難しく感じるが、要は「遺伝子とは、人体や生物の設計図と考えてほしい。
人間の体は何十億個の細胞から出来ていることは皆さんご存知であると思うが、その細胞1個1個が遺伝子と呼ばれる非常に小さな設計図を持っている。
この設計図をもとに、細胞やタンパク質、唾液、骨、血や肉、果ては白血球やヘモグロビンなど人体のあらゆる部位が作られるのだ。


そして人間と同様、植物も細胞一つ一つに遺伝子を持っており、花や葉っぱ、枝や根など、植物のほぼ全てがこの遺伝子をもとに作られる。(正確には分化という)

 

遺伝子についての説明は以上である。これ以上気になる方は、各自調べてみてほしい。

 それでは遺伝子を組み換えるとはどういうことなのか。

遺伝子組み換えとは、この設計図(遺伝子)を科学技術を用いてほんの少しだけ書き換えることである。

 

具体的な説明をする。
例えば、害虫に非常に弱い作物(野菜)があるとする。
この作物は実が凄く大きいし、世話をしなくてもすくすく育つ。更には気温の変化や乾燥にも非常に強い。でも一個だけ、虫にめちゃくちゃ食べられてしまう(害虫に弱い)という欠点がある。


この害虫に弱いという欠点さえ無ければ最高の作物なのにな~~~

 

・・・そんな時、この欠点を比較的簡単に無くすことができる方法遺伝子組換え技術だ!

 

遺伝子組み換え技術では、作物が持つ膨大な遺伝子のうち、ピンポイントで特定の遺伝子だけを改変することができる。
例えば、害虫に弱い作物を害虫に強い作物に改良したい場合、害虫に弱い作物の遺伝子中に「害虫が嫌いな物質を生産する遺伝子」を挿入する。これによって、他の遺伝子をほとんど変えることなく(ここ重要)、害虫に強い作物を作製することができる。

 

ここで、「害虫が嫌いな物質を生産する遺伝子はどうやって作ったの?」という疑問が浮かぶ人は鋭い。
この害虫が嫌いな物質を生産する遺伝子人為的に作ったものではなく、もともと自然界に存在する生物が持っていた遺伝子なのである。

(現在では一部の遺伝子の機能をどーにかこーにかして調べることが可能になっており、例えば害虫が嫌いな物質を生産する遺伝子は、もともと土の中に住む細菌が持っていた遺伝子だったりする。)


つまり、遺伝子組み換えを簡単に言うと、「もともと自然界に存在する機能が判明している遺伝子を作物の遺伝子中につけ足しただけ」なのだ。

さらに、この遺伝子組み換えによって、作物が元から持っている他の遺伝子に影響することはほとんどない。(厳密には少しあるが、遺伝子の機能を失わせることがほとんどである。そしてそれは人が作物を食べるうえで問題になることはほぼ無い。)

 


あれ・・・遺伝子組み換えって何が危険なの?(後述します)


2、通常の品種との違い

 

話は変わるが、遺伝子組換えなんてやらずに、普通の方法で新しい優秀な品種を作ればいいじゃん、という考えが浮かぶ人もいると思う。普通の方法とは交雑育種と呼ばれる方法で、今まである品種同士を掛け合わせて(受粉させて種を取って)新たな品種を生み出す方法だ。


この方法は、今日まで新たな品種を生み出すメジャーな方法であり、実際に多くの優秀な作物をスーパーに送り出してきた。

 

しかしながら、この方法を用いて、「作物の優秀な特徴(大きく育つ、乾燥に強い、病気に強い)を残したまま、更に害虫に強いという特徴を持った作物を作ること」は容易ではない。


例えば、「大きく育って乾燥に強い作物」と「病気に強くて害虫に強い作物」を親にして掛け合わせても、そんなに都合良く「大きく育って乾燥に強く、病気に強くて害虫にも強い作物」はできない。

 

これは人間に例えるとわかりやすい。
イケメンと美女の夫婦が生んだ子供は、必ずしもイケメンなのだろうか・・・?
背の高い両親から生まれた子供の背が低いことがあるのはなんで・・・?
また、A型とB型の夫婦が生んだ子供からO型の子供が生まれるのはなぜなのか・・・?

 

ここらへんは説明し始めるとキリがないので省略するが、
このように遺伝というものは非常に複雑であり、子孫を残したからといって必ずしも両親の良い特徴が引き継がれるわけではない。

 

これは某モンスター育成対戦ゲームをやったことがあるひとなら理解できるのではないだろうか?

そんな簡単に6Vのポケモンなんて手に入らないでしょ?

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某●テンドー看板モンスター。多くのプレイヤーを沼に引きずり込んでいる。


最近は便利なアイテムのおかげで厳選がラクになってるみたいだけど。

植物にもそんなアイテムがあれば良いのにね!


3、よく言われている危険性

 

ということで、これまでの説明をもとに、一般的に言われている遺伝子組み換え作物の危険性について考えてみよう。
例として、遺伝子組み換え作物の危険性を書き連ねるあるブログを見つけてきた。このブログに書いてある遺伝子組み換え作物の危険性について考えてみる。

 

参考リンク

h*tp://altertrade.jp/alternatives/gmo/gmoreasons
(なんか怖いからあえてリンクを直貼りしてないです)

 

 

その1:健康に悪影響


遺伝子組み換え食品の割合が高いアメリカでは慢性疾患が増加している。だから遺伝子組み換え作物は危険。

 

ん・・・?


それ遺伝子組み換え関係なくね(笑)

 

こういう因果関係と相関関係をごちゃまぜにして人を騙すテクニックは往々にして使われるので皆さんは注意しよう!


この場合だと、確かに遺伝子組み換え作物が流通する時期と慢性疾患が増加する時期は重なっている。(相関関係がある)
でもだからといって、遺伝子組み換え作物の流通が慢性疾患の増加に影響したかはわからないはずだ。(因果関係はない

このことから、遺伝子組み換え作物の健康への悪影響は不明だといえる。

 

 

その2:環境汚染


これは農薬の話であって遺伝子組み換えは関係ない!
遺伝子組み換え作物以外の作物にも農薬は使うよね・・・
農薬の過剰散布による耐性害虫の出現は確かに問題になっているけど、これは遺伝子組み換えとは関係ない。おわり。

 

 

その3:遺伝子汚染


これはあながち間違っていない。実際、遺伝子組み換え作物について政府や科学者が一番懸念しているのはこの遺伝子汚染についてである。
詳しくは後述する。

 


その4:気候変動促進

 

ここらへんまでくると訳が分からない・・・。


むしろ遺伝子組み換え作物は農薬や化学肥料の消費を抑えるための技術なんだよなあ。
害虫耐性作物ができれば農薬の使用は抑えられる。今までよりも少ない肥料で大きく育つ作物ができれば化学肥料は少なく済む。

 

 

その5:有機農業、従来型農業と共存できない

 

意味不明。割愛。出荷に独立した輸送システムなんていらない。

 

 

その6:民主主義と共存できない

 

?????。意味不明なので割愛。

 

 

その7:農業における種子の寡占化が起きる

 

これはあながち間違いではないかもしれない。というか既に遺伝子組み換えじゃない普通の種子で起き始めている。
有力な品種が一つの品種で何でもできればできるほど、品種の多様性は失われる(ほかの品種の存在意義がなくなる)という理屈だ。

(一応言っておくが、遺伝子組換え作物を食べて我々の体の遺伝子が組み換わることなんてありえないのでそこは安心してほしい。)

 

・・・そろそろ物申すことはやめにする。
といったようにネットで散見される遺伝子組み換え作物の危険性がいかに信頼性の低い、消費者を躍らせるために作られた情報だとわかる。
しかしながら、全てが間違いというわけでもなく、実際に遺伝子組み換え作物には確かに危険性(リスク)がある。そのリスクについて詳しくみていこう。


4、実際の危険性

 

 その1:生態系を破壊する。


これは遺伝子組み換え作物に限ったことではないのだが、世界において外来種が問題になっていることをご存知の方も多いだろう。
もともとその地域には存在しなかった他の国の生物(ウシガエルや昆虫など)が貨物船などを通じて日本に渡り、日本の既存の生物を食べるなりして生態系を荒らしている。


また、花粉症も良い例である。林業のために過去に多くの広葉樹を伐採し、代わりにたくさん植えた杉の人工林が、現在花粉症で多くの人を悩ませている。


これと同様の事が遺伝子組み換え作物にも起こる可能性がある。そもそも遺伝子組み換え作物は、作物に害虫耐性を持たせるなど、環境で生き残りやすい特性を与えている作物が多い。これら作物が野生植物の生存競争に影響を与えたり、その結果として人間にまで影響してくる可能性はあるかもしれない。

 

というかアメリカなどでは遺伝子組み換え作物は普通に栽培されているのだから、もう何らかの影響は始まっているだろう。

 

 

その2:単純に「食べると人間に良くない物質」が作物体内で生産されている。

 

例えばニコチンや梅毒など有害な物質が、遺伝子組み換えの過程によって万が一にも作物体内で生産されるようになってしまうことが万が一にも無くはない。


しかし、そもそも遺伝子組み換えは、全体から見ればほんのごくごく一部の遺伝子を改変するだけ(しかも遺伝子の機能は解析済み)なので、それで有毒物質が作られる方が生産される方がおかしいのだが・・・。

実際、毒は複雑な構造を持っているためそんな簡単には生産されない。
しかも実際に流通させるとなったら当然、安全面でのチェックは厳重に行われるだろうから、まずまずあり得ない話だろう。

 

しかしながら!現在でも解析されていない未知の、さらに体内に長い間蓄積しないと毒性がわからないような物質たまたま作られたのなら
(これを気にするなら健康リスクが分かっているタバコや酒を飲むな、オーガニック野菜だけ食べて生きろ)
一応体に良くない物質が遺伝子組み換え作物に存在する可能性がある。(ここまでくると遺伝子組み換えの問題でもない気が…食品添加物食べれなくなっちゃうね)
そこまで気にするとまあ確かに、遺伝子組み換え作物を食べることに健康リスクは存在するといわざるを得ない。


5、結局食べたら危ないの?

 

まとめると、
遺伝子組み換え作物を食べて問題は無いとも言い切れないが、問題が起こる可能性は低いと言えよう。


論理的に考えれば、消費者に危険が及ぶ可能性は非常に低いといえる。
しかしながら、現在流通している交雑育種によって作られた作物を食べるに越したことはない、といった感じだろうか。

 

(というか、科学者の間で遺伝子組み換え作物で問題視されているのは、環境への影響の面が大きい。)

 

 

・・・ということで、

何となく漠然とした不安感から遺伝子組み換え作物を危ないと考えるのは良くない。

そのことを今回の記事で感じていただければ幸いである。

 

反響があればもう少し詳しく説明することもあるかもしれない。

 

 

それでは。