ししとー(理系)の考察録

将棋と生物学系の知識、時事について考察するブログ

植物工場での野菜の生産は可能なのか?

 

昨今、人類の急激な人口増加によって食糧不足問題が騒がれている。その中で、食糧問題の解決の助けになるといわれている存在が植物工場だ。植物工場とは、植物を屋内で自動的に栽培する試みだ。映画でも似たようなテーマが扱われているのを皆さんも観たことがあるかもしれない。

 

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どことなく危険な雰囲気がある植物工場だ


今、植物工場の完成が現実味を帯びてきている。実際にいくつかの研究室や企業によって植物を人工的に栽培する試みは行われているのだ。明治大学農学部における研究などは有名かもしれない。


しかしながら、植物を屋内で自動的に栽培することなどSFでの話ではないだろうか?と疑問が残る。本来、植物は外(自然界)で育つものであり、屋内で栽培をすることには無理があるのではないだろうか?本当に可能なのだろうか?


ということで、今回は様々な視点から植物の人工栽培は可能なのか考察していこうと思う。

 

 

1、植物工場の目的とは?

 

植物工場は一般的に養液栽培(土を使わない栽培方法のこと)を利用し、自然光または人工光で植物を栽培する。温度や湿度に加え、二酸化炭素の濃度(二酸化炭素光合成に使われるため植物の成長に重要)までも機械でコントロールしたりする。

 

要するに、作物を人工的な安定した環境で徹底的に管理することで、安定した生産を実現することを目的に植物工場は運営される。

 

こういった背景には、そもそも野外での農作物の生産量は天候や気温に大きく左右されてしまうことがある。晴れた日がほとんど無く雨が降り続いたり、気温が低かったりすると生育不良や病気を簡単に発症してしまうのだ。


代表的な例として、1993年に起きた「平成の大飢饉」が挙げられる。この年の日本の夏は気温がとても低く、長雨だった。この低温で湿気の多い環境は、イネの天敵であるいもち病には大好物で、いもち病の多発、日照不足や台風等により米の生産量が激減してしまった。この事件の裏には冷害に弱い品種の販売を農家に政府が推奨していた・・・などの話もあるのだが、今回は割愛する。気になった方はネットで調べてみてほしい。

 

この平成の大飢饉に代表されるような、農作物の生産量の不安定さの問題は、将来的に人口が爆発した時、より顕在化する恐れがある。これらの食糧問題を解決する可能性を秘めたモノの一つが、植物工場による農作物生産なのだ。

 

2、植物工場の具体的な取り組み例

 

では次に、実際にどういった企業が植物工場による野菜の生産に取り組んでいるのか見ていこう。
代表的な例はカゴメだ。カゴメはグランパという企業と連携して、植物工場でリーフレタスなどの栽培に取り組んでいる。(トマトじゃないのか・・・。トマトのような実がなる野菜は生産が難しいのかもしれない。)


一番の目的としては、需給調整のために植物工場の運営を行っているようだ。「消費者が求める量を適切に届ける。」これは一般的な栽培では意外と難しい。植物は気まぐれなのだ。この取り組みには、植物工場の持つ「安定した生産量を確保する」という強みが表れているだろう。

参考URL(https://www.kagome.co.jp/company/news/2013/001516.html

 

また、村上農園という企業も植物工場の運営に取り組んでいる。
スプラウトという野菜(豆苗とも言う。サラダに入っているのを見たことがある人がいるんじゃないだろうか?)を植物工場で生産しているようだ。こちらは逆に、野外での生産は難しい野菜かもしれない。スプラウトの栽培は、植物工場に適した生産形態と言えるだろう。

参考URL(http://www.murakamifarm.com/safety/factory/introduction02/

 

これらの例を見るに、現状の植物工場での栽培は、葉菜類など比較的単純な野菜に限られているようだ。果菜類(トマトやナスなど)は栄養もたくさん必要となるし、実が割れたり何かと品質が悪化しやすいため難しいのだろう。


3、植物工場の抱える問題点

 

では、上記のように便利な事尽くしに見える植物工場だが、当然多くの問題を抱えている。具体的には大きく分けて以下の3つのデメリットがある。


・初期費用が高い
ランニングコストが高い
・現状の技術力では栽培可能な野菜が限られる

 

まず、初期費用が高いのは大きな問題点だろう。植物工場では多くの環境要因を人工的に制御するため、当然、LED証明や植物に養液を届ける機械など、多くの設備が必要となる。


初期費用が高い場合、植物工場事業に参入する事へのリスクの上昇が懸念される。そもそも農業事業に参入すること自体が、広大な土地の確保やノウハウの蓄積など、多くのハードルを抱えているのだ。それに加えて、前述した膨大な初期費用が加わってしまっては、よほど物好きな企業でないと参入しようと考えないだろう。

 

また、ランニングコストが高いことも挙げられる。先ほど述べた環境制御が必要な理由と少し被るが、太陽の代わりに照明を使えば、当然電気代が掛かる。また、気温の調整や水撒きを行う機械を動かすのにも電気代がかかる。こういった、一般的に農家が行っている地道な作業を機械が肩代わりするのだから、ランニングコストが上がるのは当然だろう。

 

最後に、野菜のバリエーションが少ないことが挙げられる。植物工場での栽培は、基本的にはレタスなどの葉菜類などの栽培や収穫が比較的容易な作物に限られるようだ。果菜類は栄養要求量や必要面積が多いという側面もあり、植物工場における栽培とマッチしない点も多いのだろう。


4、結局のところ植物工場はどうなのか

 

このように、植物工場は実現すれば非常に魅力的な農業生産技術となる。農作物の安定生産は人類が長年望んでいた夢のようなものなのだ。

しかしながら、コストやハードルの高さなど、上述したような問題点も多く抱えている。これらの問題は、工業製品のパフォーマンスの向上と共に解消されていくものだと思うが、解決されるのはまだまだ先の話だろう。

 

工場で育てられた野菜だらけの食卓・・・なんだかSFチックでディストピア感があるが、わくわくする話である。将来、植物工場によって生産された野菜が食卓を彩ることを楽しみに待つとしよう。

 

 

それでは。